近年、海外から日本の医療機関を訪れる人の間で、アフェレーシス(Apheresis)への関心が高まっています。
「血液浄化」「プラズマ交換」「血液交換」など、さまざまな言葉で紹介されることがありますが、アフェレーシスは決して一つの治療法を指す言葉ではありません。
血液を体外循環させ、血球と血漿を分離したうえで、血液中に存在する特定のタンパク質、自己抗体、免疫複合体、脂質、炎症関連物質などを、目的に応じて除去・調整する一連の治療技術の総称です。
すでに自己免疫疾患や神経疾患、脂質異常症など、さまざまな疾患に対する治療として確立された領域であり、米国アフェレーシス学会(ASFA)などでは、疾患ごとに治療の適応やエビデンスが整理されています。
そして現在、この技術は「病気を治療するための血液浄化」だけでなく、加齢に伴う炎症や血漿中の分子環境を研究する、より広い領域にも研究が広がっています。
ただし、ここで重要なのは、アフェレーシスなら何でも同じというわけではないということです。
アフェレーシスは「何を除去するか」が重要
一般的なイメージでは、「血液を機械に通して、悪いものを取り除く」という理解になりがちです。
しかし実際には、血液中には無数のタンパク質や脂質、免疫関連物質などが存在します。
そのため、単純に「たくさん除去すればよい」というものではありません。
必要な成分まで過剰に失えば、身体にとってマイナスになる可能性があります。
そこで重要になるのが、どの成分を、どの程度、どの方法で除去するのかという設計です。
代表的な方法の一つが、治療的血漿交換(TPE)です。
血漿そのものを交換することで、自己抗体や免疫複合体、炎症関連物質など、血漿中に存在するさまざまな物質を幅広く減少させることができます。
一方、ダブルフィルトレーション・プラズマフェレーシス(DFPP)は、血漿をさらに分画し、分子量などの違いを利用して特定の大きな分子を選択的に除去する方法です。
一般的な血漿交換と比較して、アルブミンなど比較的小さな分子をある程度戻しながら、大きな分子を除去することを目指せる点が特徴です。
さらに、免疫吸着療法(Immunoadsorption)では、特定の免疫グロブリンなどを吸着するカラムを利用し、より選択的な血液浄化を行うことがあります。
つまり、
「血液浄化を受ける」ではなく、「何をターゲットに、どの方法で血液を調整するのか」
という視点が、これからのアフェレーシスでは重要になります。

日本で発展してきた「選択的な血液浄化」
日本のアフェレーシスには、世界的に見ても特徴的な技術があります。
海外では遠心分離法が主流となっている一方、日本では膜分離法が広く用いられてきました。
その技術的背景から、DFPPをはじめとする膜を利用した選択的な血漿分離・浄化技術が発展してきたのです。日本アフェレーシス学会のガイドラインも、日本の臨床現場に適した形でアフェレーシスの適応や方法を整理しています。
DFPPについては、近年のレビューでも、自己抗体や免疫複合体、リポタンパクなどの高分子物質を対象とする技術として、さまざまな疾患領域で研究・臨床応用が進められていることが報告されています。
また、脂質を対象とするリポ蛋白アフェレーシスでは、LDLコレステロールやLp(a)などを低下させることを目的とした治療も行われています。
特にLp(a)は遺伝的な影響を強く受ける脂質関連因子であり、日本アフェレシス学会も高Lp(a)血症に対するLDLアフェレーシス、DFPP、血漿交換などについて整理しています。
ここから分かるのは、アフェレーシスは「一律に血液を浄化する治療」ではなく、ターゲットとなる物質や患者の状態によって、適した方式が異なるということです。
「アンチエイジング」とアフェレーシス
近年さらに注目されているのが、アフェレーシスと「加齢」の関係です。
加齢研究では、血液中のタンパク質や炎症関連因子などが、身体のさまざまな組織に影響を与える可能性が研究されています。
特に、細胞老化に伴って分泌されるSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)や炎症性サイトカインなど、いわゆる「インフラメージング」と関連する因子に着目した研究が進んでいます。
2025年には、アフェレーシスを老化関連因子の調整という観点から検討するレビューも発表され、TPEや選択的アフェレーシスによって、炎症性サイトカインや老化関連タンパク質などを調整する可能性が議論されています。
さらに、2025年には50歳以上の健常者を対象に、治療的血漿交換が生物学的年齢関連マーカーに及ぼす影響を調べたランダム化比較試験も報告されています。複数のエピジェネティック・クロックで改善が観察されたという結果が報告される一方、まだ研究段階の領域であり、これだけをもって「若返りが証明された」と考えるべきではありません。
実際、同じ2025年には、別の健常者研究で、特定のプラズマフェレーシス・プロトコルによるエピジェネティックな若返り効果は確認されず、むしろ一部の老化時計が悪化したという結果も報告されています。
この相反する結果は非常に重要です。
つまり現在のアフェレーシス研究は、
「血液を交換すれば若返る」
という単純な段階ではありません。
むしろ、
「血漿中のどの因子を調整すると、身体のどの機能に影響するのか」
を探っている段階なのです。
だからこそ、これからのアフェレーシスには、治療そのものだけでなく、患者ごとの状態を把握する「評価」が重要になってきます。
アフェレーシスを受けるなら、どのような施設を選ぶべきか
海外から日本でアフェレーシスを受ける場合、価格や設備の新しさだけで施設を選ぶのは適切ではありません。
確認したいポイントはいくつかあります。
1.治療前の評価があるか
まず重要なのは、治療を先に決めてしまわないことです。
血液検査、脂質関連マーカー、炎症関連指標、免疫関連項目、肝腎機能、血算、凝固系など、必要に応じて身体状態を確認し、その結果をもとに治療の適否を検討することが基本になります。
「アフェレーシスを受けること」が目的ではなく、その人に本当に必要なのかを医学的に判断することが出発点です。
2.一種類の方法だけを勧めていないか
アフェレーシスには、血漿交換、DFPP、免疫吸着、LDLアフェレーシスなど複数の考え方があります。
そのため、特定の方式だけを一律に提供するのではなく、患者の検査結果や目的に応じて方法を検討できる環境が望まれます。
3.医師だけでなく、専門スタッフが関与しているか
アフェレーシスは、一般的な点滴治療とは異なり、体外循環を利用する治療です。
血管アクセス、血液流量、抗凝固、膜や吸着材の選択、循環状態など、さまざまな要素を管理する必要があります。
そのため、医師による診察だけでなく、アフェレーシスに習熟した臨床工学技士や看護師など、多職種による運用体制が重要です。
日本のアフェレーシス診療ガイドラインでも、医師だけではなく、臨床工学技士、看護師など複数の医療職が関与する治療として位置づけられています。
4.「治療前」と「治療後」を比較しているか
さらに注目したいのが、治療前後のデータ比較です。
治療後に「すっきりした」「調子がよい」という主観的な変化だけでは、医学的な評価として十分とはいえません。
治療前にどのような状態だったのか。
どの物質がどの程度変化したのか。
その変化が一時的なのか、一定期間維持されるのか。
こうした情報を蓄積することで、アフェレーシスをより個別化された医療へ発展させることができます。
これからは「血液浄化」から「血液プロファイリング」へ
アフェレーシスの未来を考えるうえで、非常に興味深いのが「治療と検査の組み合わせ」です。
近年は、血液中に存在する多数のタンパク質を解析するプロテオミクスなどの技術が進歩しています。
2025年にNature Medicineで発表された大規模研究では、約4万4,000人のデータを用いて、血漿中の多数のタンパク質から複数の臓器の生物学的年齢を推定し、将来の疾患リスクとの関連を調べています。
こうした研究が進めば、将来的には、
「この人は炎症関連タンパク質が高い」
「この人は脂質関連因子が問題になっている」
「この人は免疫関連の特定分子が特徴的である」
といった具合に、血液中の情報を細かく分析したうえで、どのような血液浄化が適しているのかを検討する時代が来る可能性があります。
つまり、
検査 → 医学的評価 → 適切なアフェレーシス → 再検査 → 経過観察
というサイクルです。
これは、単純に「血液をきれいにする」という発想とは大きく異なります。
海外患者にとって重要なのは「治療」だけではない
日本国外からアフェレーシスを受けに来る患者にとっては、さらに別の課題があります。
言語、既往歴、現在服用している薬剤、過去の検査結果、治療目的、帰国後のフォローアップなどです。
特にアフェレーシスは、単独の施術だけを切り離して考えるより、患者全体の医学的背景を把握したうえで実施することが重要です。
そのため、海外患者の場合は、単にアフェレーシス装置を備えた施設を探すのではなく、
「事前の医学情報を整理し、医師による評価につなげ、必要な検査を行い、適切な医療機関で治療を受け、その結果を記録して帰国後の主治医とも共有できる体制」
まで確認することが望まれます。
日本の医療技術を海外から受けに来るということは、設備だけを利用するということではありません。
日本で発展してきたアフェレーシスの技術と、専門医療者による医学的判断、精密な検査、そして患者一人ひとりに合わせた治療設計を組み合わせることに価値があります。
アフェレーシスは「未来の治療」ではなく、「進化する医療技術」
アフェレーシスは、すでに自己免疫疾患や脂質異常症などの治療で確立された領域を持つ一方、老化や慢性炎症、血漿プロテオームなどとの関係については、現在も研究が進んでいる領域です。
だからこそ、アフェレーシスを「若返り治療」と一言で片付けることは適切ではありません。
一方で、血液中の分子環境を物理的に調整できるという特徴は、今後の予防医療や個別化医療を考えるうえで非常に興味深い可能性を持っています。
これから重要になるのは、
何を除去したのか。
なぜその方法を選択したのか。
治療によって何が変化したのか。
そして、
その変化を次の治療や健康管理にどうつなげるのか。
という視点です。
アフェレーシスを選ぶ際には、「血液浄化ができる施設」というだけでなく、複数の血液浄化技術を理解し、医学的評価から治療方法を検討し、治療前後の変化まで追跡できる環境を選ぶ。
それが、これからのアフェレーシスに求められる一つの基準になるでしょう。
血液をただ「きれいにする」のではなく、血液から得られる情報を読み取り、その人に必要なアプローチを考える。
アフェレーシスは、そんな精密医療の方向へ、少しずつ進化しています。

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